貴方の愛に捕らわれて
 

どうしたものか…。奥にある固定電話には、外部から直接電話がかかってくることはない。



外線電話は全て一旦、本宅の事務所に詰めている電話番の者が出て、必要に応じて転送されてくるのだそうで、その外には、奥と本宅とのやり取りの為に、内線電話として使用するのだと、ここに越してきた初日に猛さんから教えて貰った。



だけど奥の固定電話が鳴るのは、常に猛さんや龍二さん達がいる時ばかりで、当然その電話対応も自分以外の誰かがしてくれていた。だから自分で受話器を取ったことがなく、気後れが先に立って出にくいのだ。



ただ、このタイミングで電話が鳴るということは、本宅の誰かが自分に用事があるということなのだろう。



少しの間逡巡したものの、誰もいないのだらか仕方がない。ゴクリとつばを飲み込んで受話器を上げた。



『……も、もしもし』



恐る恐る受話器を耳に当てれば、明るい松野さんの声が聞こえてきて、知っている人の声に肩の力が抜けた。



 

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