魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
オーディンがケルベロスの背からローズマリーの手を引いて降ろすと、ラスとコハクが最高ににやにやしていたので、聡いオーディンは苦笑いを浮かべてコハクの隣に立つとこっそり耳打ちした。


「何か勘違いしてますか?」


「勘違いじゃねえだろ、もう食っちまったのか?」


「秘密です。その方が楽しいでしょう?」


相変わらずの秘密主義な眼帯の男が微笑むと、なんとしたことか…ラスがオーディンのローブをきゅっと握り、背伸びをして頬にキスをした。


「あーっ!チビ!なんでキスなんかするんだよ!断固反対!」


「オーディンさん、お師匠さんをお願いね。コーと離れてからずっと寂しかったはずなの。だから…」


グリーンの瞳は切実な光をたたえ、オーディンは掴みかかってきそうな勢いのコハクから一歩後ずさりつつ腰に手をあててまたもや微笑。


「価値観の合うとても貴重な存在です。それだけは教えておいてあげますよ」


「わあ…コー、聴いたっ?コー?」


「てめえちょっとこっち来い!」


…ラスからキスをしたというのに、何故かされた方のオーディンを追いかけ回すコハクに肩を竦めたラスは、空中庭園から凍り付いた街を見下ろしていたリロイとティアラの間に挟まると、冷たい風に金の髪をなぶられながら、瞳を潤ませた。


「みんな可哀そうだね…。みんな助からないんだって。なんとかしてあげたいのに…」


「ラス…影ができる限りのことをやってくれるはずだよ。君のためにね」


「うんっ。コーが人海戦術とか言ってたけどリロイは意味わかる?」


「僕たちに移住を呼びかけるっていう案はいいと思うけど…1年っていうか半年でやるとか言ってたし、時間が足りないんじゃないのかな」


「だから乗り物を貸してやる」


会話にコハクが横入りしてくると早速ラスを抱っこし、どすどすと荒々しい足音で近付いてくる大きくて真っ黒なドラゴンの迫力に気圧されてティアラを庇うようにしてリロイが立つと、ラスがにっこりした。


「ドラちゃん、2人を乗せてあげてね」


『ベイビィちゃん以外は乗せない』


「お願い、ドラちゃん」


鼻面にキスをすると、ドラちゃん有頂天。

魔王、鼻面に皺。
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