魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
コハクはラスの前に立ちはだかり、両腕をだらりと下げるとコハクよりも少し背の低いオーディンを見下ろした。


「てめえ…どのツラ下げてそんなことが…」


「あなたに構ってほしかったんですよ。ですがその話は後にしましょう。私は医術も心得ています。ラス王女の吐き気は深刻と見えますが…時間が惜しいのでは?」


正論を振りかざされ、背中に庇っていたラスがシャツをくいくいと引っ張って弱々しく微笑んだ。


「コー、オーディンさんと喧嘩しないで。あと…お医者さんなら診てもらいたいの。すっごくつらくて…」


「チビ…わかった、診てもらおうな。…おい、チビに触んなよ。絶対駄目だからな」


「はいはい。ではコハク様、隅っこで待っていて下さい」


渋々場所を譲ると、オーディンはやわらかく笑んだまま椅子を引き寄せて横たわっているラスの傍らに座った。


「どうですか、まだ吐き気はしますか?」


「うん…きっとオレンジを沢山食べたせいだと思うの。食あたりかな…」


「オレンジ?どの位食べましたか?」


「えっと…5個位。でもお腹は下してないの。なんでだろう?」


お腹を擦りながら首を傾げるラスをじっと見つめていたオーディンは腰を浮かせるとラスの腹に手を伸ばした。


「お触り禁止!!」


「触診しないとわからないですねえ。触ればすぐにわかりますけど」


いち早くラスを元気にしてあげたいコハクはきりきりしながらも腕を組み、壁に寄りかかって怒鳴りたいのを我慢して舌打ちした。


「…ちょっとだけだぞ」


「では失礼」


そしてシャツを少しだけ捲って腹に触れてしばし。

…突然オーディンが小さな声で笑い出した。



「ふふふふふ」


「私…病気なの?」


「病気というか…ラス王女…失礼ですが、最近生理は来ましたか?」


「え…?」



コハクとラスは顔を見合わせた。

そういえば…コハクと2年ぶりに再会してから生理は来ていない。

だとすれば…この現象は?



「え…、え…?」


「おめでたです。コハク様、ラス王女、心よりお祝い申し上げます」



授かりものが、やって来た。
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