魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
コハク教師によるマンツーマンでのおむつの替え方講座を受講していたラスは、ここで不器用っぷりを見事に発揮していた。


「あ、おむつ外れちゃった…。こうで…こうでしょ?」


「や、違うな、ここがこうで…こうだろ?」


乱暴な性格ではあるが細くて繊細な指が器用に動き、人形に素早くおむつを装着したコハクはさもそれが本当の赤ちゃんであるかのようにして腕に抱いてあやし始めた。


「ベビー、パパでちゅよー。パパがおむつ替えたんでちゅよー」


「コーとおんなじことしてるもんっ。どうして出来ないんだろ?デスは……デスも上手だね…」


おむつの替え方講座をベッドに座って聴講していたデスが見よう見まねでやってのけた完成品はコハクと同じ位しっかりしていて、ぷうっと頬を膨らませたラスはコハクの腕から人形を奪った。


「あ!俺のベビーが!」


「コーはおむつ係ね。私はベビーにお乳をあげる係」


「じゃ、じゃあ俺はベビーと一緒にお乳を飲む係がいいです!」


「やだ、コーのヘンタイ」


…ヘンタイと言われて喜ぶ男も珍しいが、さらに上機嫌になったコハクが高い高いをしているとドアをノックする音と共に開き、グラースが顔を出しに来た。


「そろそろディナーの……何をしているんだ?」


「あ、今おむつの替え方を練習してるの。明日はクリスタルパレスに顔を出しに行ってお引越しの準備を手伝おうかなって思ってるの」


明日からついに住民たちの引っ越し作業が始まる。

力自慢のグリーンリバーの魔物たちが大勢駆り出され、明日1日で作業を終了させるつもりだとコハクが語った時はとても驚いたが、彼らをいつまでもコロニーで生活させるわけにはいかない。


「そうか。あと今日もあのチビ王子は部屋で食事をするそうだ。どうやら私たちを避けているみたいだ」


「へえ、まあいいんじゃね。あいつを気にする時間がもったいねえし、俺もお勉強しなきゃだから早く飯食って地下室行きてえんだけど」


「え?コー…また地下室に行くの?私も行っていい?」


「チビは部屋でおむつの替え方のお勉強!デス、お前が見てやるんだぞ」


「………わかった」


心細げな表情で見上げてきたラスの手を引いてベッドに座らせたコハクは、ラスを後ろ抱っこして腹に手をあてると、ラスの耳たぶにキスをして優しい声色で言い聞かせた。


「すぐ戻るって。チビが起きてるとベビーもずっと起きてるんだから早く寝るんだぞ」


「…うん、わかった」


やっぱりコハクと離れていると、寂しい。

2年前の恐怖をどうしても…思い出してしまうから。
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