魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
夕方になってリロイとティアラがグリーンリバーに戻り、ラスの部屋を訪ねると――ドアを開けた途端リロイの背筋が伸び、深々と頭を下げたのでティアラが驚いて声をかけた。


「リロイ?」


「カイ陛下…どうしてここに…」


リロイの背中側に立っていたのでティアラからは中が見えなかったが、カイと言えば…まさに憧れの“勇者様”そのもの。

思わず服に埃がついていないかチェックしたり手鏡で化粧が落ちていないか素早くチェックしたティアラは、リロイと同じように背筋を伸ばして部屋へ入った。


「やあリロイ、元気にしているようでよかったよ。…ああ、ティアラ王女もご一緒だったんですね」


「あ、あの…カイ陛下…、は、はじめまして!その……す、素敵…」


最後は尻すぼみしてしまったのでカイの耳には届いていなかったが、カイの膝で無邪気に笑っていたラスがティアラの秘密を暴露した。


「あのね、ティアラの憧れの人はお父様なんだよ」


「ら、ラス!」


慌てて声を上げたがティアラの顔は真っ赤で、隣のリロイが手で口元を覆いながらもくすくす笑っていたので思わず腰を突いて非難した。

その微笑ましい姿に瞳を細めたカイは、ラスを膝から降ろした途端コハクに奪い取られてまた笑いつつも、ゆっくりとティアラの前に立って握手を求めた。


「はじめまして。ああ、フィリアにとてもよく似ている。フィリアとオーフェンは元気ですか?互いに国を背負う身になってしまってからは会う機会も少なくて…」


「は、はい、あの…小さい時はいつも魔王と勇者カイが戦った時の話を聴かせてもらっていました。いつかお会いできたらと思っていたので、今感動しています」


「ありがとう。フィリアも来ていると聴いたんですが…」


「…カイ」


カイがグリーンリバーにやって来たことを知っていたが、心を落ち着けるために時間を要したフィリアが部屋に現れると、ラスを抱っこしたコハクの赤い瞳が興味深げに輝いた。

フィリアは今もカイを想っている――フィリアの瞳を見れば、それは歴然だった。


「フィリア、久しぶりだね。オーフェンとは一緒に来なかったのかい?」


「ええ…2人で国を空けるわけにもいかないから…。本当に久しぶりだわ。…ソフィー王妃はお元気?」


「とても元気だよ。ラスをお嫁に出さなければいけなくなったから、そろそろ2人目をという話を最近しているんだ。もう私も若くはないからね」


カイの青い瞳がソフィーを想って和らいだが、フィリアはローブの胸元をぎゅっと握ると努めて笑顔を作り、ティアラの肩を抱いた。


「私も明日の結果によっては国を継ぐ者が居なくなってしまうから、あなたと同じね。…お互い苦労するわね」


2人が見つめ合う。

過去の確執が見え隠れして、また魔王を喜ばせた。
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