魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
コハクが額に手をあてる。

ラスは瞳を閉じたまま、コハクの集中を切らさないために話しかけるのをやめた。

その間に、コハクと過ごした日々が走馬灯のように思い出された。


はじめて影から声が聞こえた時…

はじめてコハクが影から姿を現した時…

はじめてコハクに告白された時…

はじめて人を好きになった時…


はじめて、コハクに抱かれた時――


コハクの居ない2年間の、身を切られるように痛くてつらかった日々――


額に当てられたコハクの手から白い光があふれ出した。

瞳を閉じていながらもその光がはっきりとわかるほどの真っ白な光で、今コハクがどんな表情をしているのかもわからなかったが、腰に回っている左腕をぎゅっと握ったラスは、コハクの精巧を本当に疑っていなかった。


「…………コー…?もう終わったの…?」


「…わかんね。でも終わった…と思う。俺も1度見ただけだし、失敗してるのかも。チビ、どっか痛くないか?おかしいとこは?違和感はあるか?」


「ううん、なんにも。ねえ、コーは不死になったことをどうやって確認したの?」


「俺は自分の胸に火球を……おい、チビにはぜってぇしねえからな」


…何も変化はない。

ラスは自身の掌を見つめて、次いでコハクを見上げた。

心配そうな表情で顔に穴が空いてしまうのではないかと思うほどに食い入るように見つめているコハクの顔につい吹き出したラスは、テーブルからペーパーナイフを出して人差し指を切りつけようとして慌てたコハクに止められた。


「やめろよ、加減狂って深く切ったらどうすんだ」


「じゃあコーがやって。私が不死になったらすぐ治るんでしょ?コーができないのなら自分でやるから」


盛大なため息をついたコハクはソファに座ってラスを後ろ抱っこすると、儚くて白く細い手を取り、ペーパーナイフを握る手に力を込める。

僅かに刃先が揺れているのを見たラスは、コハクが自分を傷つけることをとても嫌がっているのだと気付いていたが、敢えて何も言わないでおいた。


「早くしてよコー」


「ちょっと待てって。…ちくっとするから痛かったらすぐ手を挙げるんだぞ」


「うん、わかった」


刃先がゆっくりと指に近付き、指を数センチ滑らかに薙いだ。

しばらくすると忘れていたかのように血が滲み出てきたのでコハクと一緒にじっと見つめていると――


傷口は瞬時にして――消えた。


「こ、コー…これって…」


コハクの冷徹な美貌にようやく笑みが浮かんだ。

成功したのだ。

ラスは…不死になった。
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