愛を教えて
同じミスだけは絶対にできない。

この世に据え膳を食わない男性がいるとは思ってもみなかったが、卓巳は別だ。

その証拠に、個人秘書の宗は簡単に朝美の誘いに乗ってきた。宗と関係を続けてきたのは、卓巳の情報を得るためといっても過言ではない。


そんな朝美にとって、遺言書の件は最大のチャンスだった。

結婚相手を捜しあぐねた卓巳から相談を受けたときは、相続が確定するまでの仮の花嫁に名乗りを上げるつもりでいたのに。


言葉の端々に悔しさを滲ませつつ、朝美は万里子のことを卓巳に尋ねた。


「聞いてどうするんだ」


朝美の本心を知ってか知らずか、卓巳の声はいつもどおり冷たい。


「同じ女として私に何が足りなかったのか……教えていただきたいと思いまして。社長のためでしたら、私だってどんなことでもしましたのに」

「――彼女は、私が命じるまで服は脱がない女性だ」


二年半前の醜態を揶揄され、朝美は赤面して押し黙った。


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