愛を教えて

(9)祖母

夜の九時を少し過ぎたころ。

裏庭に面した廊下を歩き、卓巳は目当ての部屋に辿り着く。


――コンコンコン。


手の甲ではなく内側をドアに向け、軽く握った指の関節でノックする。そこは、藤原家の女主人、皐月の私室だった。


「どうぞ」

「失礼します」


卓巳は静かにドアを開き、中に滑り込む。
室内には皐月と、彼女が呼んだ藤原家の顧問弁護士、沖倉修一郎《おきくらしゅういちろう》がいた。

沖倉はすでに還暦を迎えた初老の紳士だ。髪は大部分が白くなっている。以前は白い髭もたくわえていたが、孫に嫌われたとかで、今は綺麗に剃っていた。


「お帰りなさい、卓巳さん。お仕事ご苦労様でした」

「ただいま戻りました。お待たせして申し訳ありません」


祖母に労いを受け、卓巳は深々と頭を下げる。


「沖倉先生も、お待たせいたしました」


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