愛を教えて
「旦那様、皆様、お食事の用意が調いました。食堂にお越しくださいませ」


浮島の呼びかけに、ホッとしたのは尚子たちのほうである。

息が詰まるような攻防に、一時ストップがかかった。


「ああ、わかった。万里子、こっちだ。案内しよう」


ごく自然に卓巳は万里子に腕を差し出す。


「はい」


万里子もまた、ごく当たり前のような動作で卓巳の右肘にそっと手を添えた。

卓巳は彼女の手に、自分の左手を重ねる。

ふたりの強張る指先がしだいにほぐれ……月夜の魔法がふたりの胸に甦った。



『卓巳さんの妻にしていただきたいと思いました』


万里子の言葉に胸が浮き立つような喜びを感じる。この思いに名前を付けるなら、それは“恋”なのだろう。

かつて、淡い思いを抱いた経験ならある。

それを諦め、打ち消すことは苦しかったが、可能だった。だが、そのときの思いとは熱さが違う。


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