愛を教えて
万里子の言葉が本心であるなら。


卓巳は本物の愛情を知ることができる。

それは何度も、望んでは裏切られてきた願い。密かな願いが叶えられることを祈り、藤原家に戻ったものの……そこは鬼の巣窟だった。


息子を溺愛した皐月も、結果的には我が身を選び、見殺しにした。

卓巳にはどうしても、皐月が示す愛情に利害がないとは思えずにいる。



――愛されたい。


なんの才能がなくとも、受け継ぐ財産がなくとも、無条件に愛を注がれる喜びを、ただ一度でいいから味わってみたい。



だが、万里子にそれを望んではいけないのだ。

なぜなら、彼女の弱みにつけ込み、騙し、脅迫して、妻になる代償に金を提示したのは卓巳自身なのだから。

愛を乞う術も資格も持たない。

そんな卓巳でも恋をするのは自由だ。たとえ、期限付きの契約を交わした仲であっても。


万里子を妻と呼び、独占したい。


そのためなら……卓巳は周囲のすべてを欺く覚悟をした。


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