愛を教えて
「まあ、卓巳さんも奥手なこと。そのときに、お声くらいかければよろしかったのに」


祖母の孫をからかう口調に、卓巳は憮然とした表情を作る。それでいて、口元は微妙に緩んでいた。


「もちろんそのつもりでしたよ。まさか、すぐに帰ってしまうとは思わなかったんです。奥手とは心外な……」

「それでも半年はかけ過ぎですよ。ねえ、万里子さん」


卓巳の様子が穏やかなので、自然に万里子も笑みがこぼれる。

当然、皐月の問いかけにも、万里子はにこやかに答えた。


「ああいった華やかな席は苦手なんです。何もなくても、すぐに帰るつもりでした」

「無論、彼女の素性を調べるのに半年もかけてはいませんよ。ただ、お会いするつてを探しているうちに時間が経ってしまっただけです」

「まるでシンデレラですな。王子様よろしく、ガラスの靴を持って都内を廻られた訳ですか」


敦は恥ずかしくなるような言葉を平気で口にする。

その都度、皐月の目に不快感が浮かんだ。万里子にもわかることだが、敦は気づかないらしい。


「いや、実際に廻ったのは、私ではなく宗ですが」


そのとき――和やかな会話を断ち切るように、食堂に派手な音が響いた。


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