愛を教えて
「申し訳ございませんっ!」


ちょうど、万里子の前から空いた皿を下げようとしたメイドが、その皿を落としたのだ。


「万里子。怪我は?」

「いえ、私は大丈夫です。……怪我はありませんか?」


万里子は皿を片付けるメイドに声をかける。


「まあ、どうしましょう! ドレスの裾を汚してしまいました」

「そんな、酷い汚れではありませんので、気になさらないでください」

「でも、染みになってしまいます。軽く拭かせていただきますので……化粧室にご案内いたします。さあ、どうぞ」

「でも……あの」


卓巳の判断を仰ごうとしたとき、万里子の正面に座る尚子が久しぶりに口を開いた。


「サッとでも落として来られたほうがよろしいわ。遠慮なさらないで」


妙に優しげな猫なで声に、卓巳の表情も一瞬曇る。

とはいえ、万里子に断る理由もない。


「はい。では、少し失礼いたします」


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