愛を教えて
「た、たくみくん。そんな、乱暴は……」


さすがにひとり息子が心配になったのか、敦は遠慮がちに卓巳を止めようとする。 


「ご心配なく、話し合いです」


卓巳は敦を一瞥すると、わずかに力を緩めた。
そして太一郎に顔を寄せ、一語一語区切るように言った。


「いいか? 私の妻に触れるな。返事はひとつだ」

「……わ、わかった。わかったから、離してくれ……」


無駄な抵抗と悟ったのか、太一郎は全面降伏する。


「たくみさん……もう、やめて」


万里子のか細い声を聞き、卓巳はハッとして太一郎を解放した。


これまで、ただの一度も乱暴な真似をしたことがない。
そんな卓巳の思いもよらない行動に、太一郎は圧倒され茫然自失の様子で壁際にズルズルと座り込む。


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