愛を教えて

(6)見えない壁

卓巳の部屋に入る。
それだけで万里子は胸が浮き立った。太一郎の失礼な行為すら忘れてしまうくらいに。

そんな万里子に卓巳は苛立ちを露わにした。


「謝る必要などなかったんだ! 奴には気を許すな。あの男がそう簡単に、目を付けた女性を諦めるとは思えない」

「はい……すみません」


万里子が謝っても卓巳の苛立ちは治まらないようだ。

彼女の前に立ち、いきなり、頬に手を添えて上を向かせた。


「キス、されたのか?」


卓巳の両手が左右の頬に触れた瞬間、万里子の鼓動は跳ね上がる。質問には慌てて首を横に振った。
万里子の答えに卓巳は大きく息を吐く。

答えたら、すぐに離れてくれると思っていた。ところが、卓巳は万里子から手を離そうとしない。

ふたりは見つめ合い、数秒、いや数十秒が過ぎる。

声も出さずに、万里子は卓巳の瞳に映る自分を見ていた。

卓巳はなんて綺麗な瞳をしているのだろう。最初に会ったときにも思ったが、汚れのない美しい目だ。
万里子は吸い込まれるように、じっと見つめ続けた。


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