愛を教えて
落ちつかないのは卓巳も同じ、いや万里子以上だ。

電話は秘書の宗からだった。


『取引先について調査会社から報告書が届きました。それと、明日のご予定の確認に……』


そんな声が聞こえてくるが、実のところ何も耳に入らない。
どうしても万里子のことが気になる。顔を上げた瞬間、彼女の視線とぶつかり、慌てて下を向いた。


(何をやってるんだ、全く! 中学生じゃあるまいし)


万里子が部屋の隅に歩いて行くのを目の端に捉えた。
追いかけるように、彼女の背中を見つめる。

もし、『キスされた』と万里子が答えていたら、自分はどうしていただろうか。
誰に引き止められても、太一郎を殴りに行ったかもしれない。

そして、卓巳も彼女に……。


『社長? 社長!?』


宗の声にハッと我に返る。


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