愛を教えて
「なぜだ? なぜそんなことを聞く? 君が、僕の子供を産んでくれるのか?」


それは、彼女にとって何より苦しい言葉。
卓巳に悪気がある訳ではない。彼は何も知らず、万里子の質問に疑問で返してきただけなのだ。


「……私はただ、卓巳さんのお父様のことを考えたんです。お父様は生まれてくる子供のために、結婚を決められたのではないか、と」

「僕のためだって? 父は母のたくらみを知りながら、僕のためにすべてを捨てて結婚の道を選んだ、か。――それは素晴らしい。最高の父親だ!」


大袈裟なほどの声を上げ、卓巳は愉快そうに笑う。しかし、その頬は引きつり、実際に浮かんでいるのは自嘲気味の失笑だった。


卓巳の母親が酷い女性だったという話はいやというほど聞かされた。
だが彼の父親は、言い方は悪いが“金目当ての女性に騙された被害者”ではなかったのだろうか?

そして、万里子の予想を裏切る形で、卓巳は口を開いた。


「どうやら君は、四年前の自分の境遇と重ねているようだな。その男に、子供を産んで欲しい、結婚しよう。そう言って欲しかったのは君自身だろう?」

「いえ、そんな……そういう訳では」



万里子が気づいたとき、卓巳の瞳は色を変え、研ぎ澄まされた刃物を思わせる鋭い光を放っていた。


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