愛を教えて
実は、卓哉と響子は正式に離婚していなかった。
響子は再婚したくて離婚の申請をした。そのとき、卓哉の死を知った。そして、再婚予定の内縁の夫は、卓巳に代襲相続の権利が生じることを響子に吹き込んだのである。
藤原家のほんのオコボレでもいただこうと、彼らは卓巳を捜し出した。


しかし、高徳から金を引き出そうなど、簡単なことではない。
結局、はした金で響子たちは追い払われることになり……。

そうなると、卓巳はただの厄介者に過ぎない。
長距離トラックに乗る義父は酔うと卓巳に暴力を振るった。
響子が卓巳を守るはずはなく。それどころか……際限なく卓巳を苦しめたのである。


中学卒業後、卓巳は工事現場の作業員や新聞配達、宅配会社の仕分けなどで働き始める。
響子の紹介でスナックの厨房で皿洗いもするが、女性の多い仕事場は長く続かなかった。

しだいに、不況から義父の仕事も減り、響子は体調不良を訴え、仕事も休みがちになり……。
実質、家族三人の生活は十六歳の卓巳が支えていた。
その後、響子の病状は悪化し入院。同時に、義父は若い女に走った。

諸悪の根源とも言える響子は、卓巳が十八歳のときに他界した。
これにより、卓巳はようやく自由の身となる。


卓巳は、再び勉強を始め当時の大学入学資格検定に合格。
翌年には奨学金制度などを利用して東京大学に入学する。生活費は家庭教師や夜間の警備員で稼ぐという苦学生だった。


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