愛を教えて
当時五歳の卓巳が経験した苦難は、筆舌に尽くし難いものとなっていく。

卓哉は息子を抱え、生活に困窮した。
そして、とうとう高徳に泣きついたのだ。卓哉は家に戻りたいと土下座して頼んだ。しかし、高徳はあっさりと追い出したのである。

卓哉は工事現場やパチンコ店の住み込みで働いた。
職がないときは、公園や駅のホーム、橋の下で寝起きすることもあった。

だが……坊ちゃん育ちで繊細な卓哉に、そんな生活が長く続く訳がない。卓巳が十歳のとき、三十五歳の卓哉は突然倒れて還らぬ人となった。



その後、卓巳は施設に保護される。
それからの二年間、そこでの生活は彼にとってまさに天国であった。

まず、屋根の下で寝起きできる。一日三回の食事と二日に一度は風呂に入れる。そして、何より嬉しかったのが、学校に通えることだった。

卓巳は義務教育にもかかわらず、ほとんど学校に通ったことがなかったのだ。
当時の彼は自分の名前が漢字で書けなかった。しかし、そんなハンデをあっという間に克服し、半年後には、学年トップの成績を収めるようになる。


ところが……天国が地獄へと変わる日がやってきた。
中学入学直後、彼を捨てた母、響子が卓巳を引き取りに来たのだ。


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