愛を教えて
――愛情も夫婦生活もない結婚。


和子に言われたその言葉を思い出し、万里子は尋ねた。

お金目当てで愛情がなかったとしても、夫婦生活までないとどうして言えるのだろうか? 
話を逸らせるつもりで口にしたことだったが……。


「それは……ちょうど君くらいのころ、失恋のショックで女性と関係が持てなくなった時期があった。一過性のことだったんだが、昔のカルテを探してきて、僕が不能者だと言い回ってるんだ」


卓巳の額にうっすらと汗が浮かんでいた。心なしか、声も上ずっている。
万里子なら、すぐに卓巳が見せた違和感に気づけたはずだった。
しかし、このときの万里子は別のことに気をとられてしまったのだ。


――卓巳には、そこまで愛した女性がいた。


姿の見えない相手に嫉妬心を覚え、万里子の胸はざわめいた。


「そ、そうだったんですか。てっきり、ホテルに泊まったことを責められるのかと思っていたので、不思議だったんです」

「治癒の証拠を見せろと言われてもね。密室で叔母相手に証明する訳にもいかないだろう? まだ何か言うかもしれないが、適当に聞き流しておいてくれ」


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