愛を教えて
ゼイゼイと肩で息をする尚子から目を逸らし、皐月は紅茶に視線を落とす。ふうっとため息をつくと、ティーカップをソーサーに戻した。


「わかりました。千代子、卓巳さんを呼んでいらっしゃい。万里子さんとふたりで来るように、と」

「かしこまりました」


メイド頭でもある千代子は皐月に答えたあと、背筋を伸ばしたままで一同に軽く会釈し、ガーデンルームから出て行った。



十分後、卓巳と万里子は皐月の前に揃って姿を見せた。


「何ごとでしょう? お急ぎと聞いて参りましたが」


卓巳はジャケットを軽く羽織り、ネクタイは緩く結ばれていた。外されたままの襟元のボタンが、普段の彼とは違ったムードをかもし出している。

皐月は少し驚き、軽く咳払いをして気持ちを引き締めた。


「もう二時間近くになりますよ。結婚前の男女がふたりきりで過ごすには長過ぎる時間です。万里子さんを大事に思うなら、卓巳さんが気を付けなくては」

「申し訳ありませんでした。私の配慮が欠けていました。これからは充分に気をつけます」


卓巳の台詞はさりげなく“次”があることを匂わせていた。


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