愛を教えて
「まあ、皐月様、その程度で済ませるおつもりですの?」


尚子が甲高い声を上げる。
そして卓巳に向き直り、再び嫌味を言い始めた。


「冷静で女性問題など起こしたこともない卓巳さんがねぇ。これほどまでに夢中になられるなんて、相当男心に通じてらっしゃるのね。恐ろしいこと」

「叔母上、言いがかりです。僕たちはただ、部屋で音楽を聴きながら、結婚してからの話をしていただけですよ」


卓巳は結婚が決定事項のように話す。


「話をされるだけなのに、ドアに鍵をかけてカーテンまで閉められたのね。どんな内緒話かしら?」

「わざわざ寝室のドアの外まで確認に来られたのですか? ご苦労様です」


卓巳に軽く往なされ、尚子は怒りの矛先を万里子に向けた。


「先ほどは大騒ぎをなさっておられましたけれど……。卓巳さんを虜にするなんて、こういったことに随分長けていらっしゃるみたいね。太一郎さんにもあなたから色目を使ったんじゃなくて!? 正直におっしゃい!」

「いえ、とんでもありません」

「叔母上、万里子は私にとってすでに妻です。これ以上、私の妻を愚弄されるなら、私にも考えがありますよ」


卓巳のトーンが一気に落ちる。
そこまでのとぼけた口調が、鋭く研ぎ澄まされた刃へと姿を変え、尚子の喉元に突き付けられた。


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