愛を教えて
話しているうちに、卓巳の運転する車は区役所の地下駐車場に滑り込んだ。
卓巳が取り出した婚姻届には、すでに彼の署名捺印がしてあり、すべての書類が揃っていた。
あとは万里子の署名捺印だけだ。

混乱しつつも、名前を書きかけた万里子だが……ふいに彼女の手が止まった。

永瀬あずさのことを思い出したからだ。
卓巳の愛人を名乗った彼女は、妊娠の可能性を口にした。
言わないで欲しい、と口止めされたが、まさか今日入籍するつもりだとは万里子にもわからない。


「どうした? なぜサインしない」

「あの、ちょっと待ってください。あの……その前に、どうしても確認しておきたいことが」

「この期に及んでなんだ? まさか、止めるなんて言い出すつもりじゃないだろうな!? そんなことは絶対に認めんぞ!」


卓巳の怒声に、万里子はビクッとする。
万里子を怖がらせていることに気づかないのか、彼は更に怒鳴り続けた。


「そんなに僕の妻になるのは嫌か? だが約束、いや、契約だ! ここまで来て……」

「あ、いえ、あの……子供が、できたかもしれないと言われて」


卓巳の気迫に押され、万里子は小さな声であずさのことを話し始めたが……。

卓巳は瞬く間に、真っ青になった。


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