愛を教えて
「誰の子だ……僕の妻になると約束しながら、誰とそんな真似を……万里子、言え。四年前の男か? 僕に言ったことは嘘だったのか? まだ切れてなかったのかっ!?」


青い顔はしだいに赤鬼のように変わる。
万里子は慌てて答えた。


「違います! 私じゃありません。どうして、私がそんなことを」


肩で息をする卓巳だったが、万里子の否定に少し落ちついてきたようだ。

万里子はここが役所の中ではなく、駐車場に停めた車内であったことに感謝した。
他人に聞かれたら、とてつもなく恥ずかしい会話だ。 


「ビックリさせないでくれ。……なら、いったいなんの話だ?」


ビックリしたのは万里子のほうだ。
だがそれは言わず、万里子は言葉を選んで話を進めた。


「卓巳さんの家で、私を化粧室まで案内してくれたメイドさんのこと……覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、覚えてる。――あの女か。永瀬は君に何を吹き込んだ?」

「言われて困るような……心当たりがある、とか?」

「ない。だが、どんなことを言い出すかわからない女だ。……え? まさか」


卓巳は自分で口にしたことに何か思い当たったようである。


「卓巳さんから……お手当てをもらっている、と。それは、その、色々と夜中に奉仕する分とか……」

「君は、そんな馬鹿げた話を信じたのか?」

「だって、あなたの子供を妊娠したかも、と言われて。でも、自分はメイドだから、なんて。もしそうなら、彼女と結婚するべきです。そうでないと、子供はあなた以上に辛く寂しい思いをすることになるわ。だから……」


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