愛を教えて
――もう少し時間をかけて、あずさと話し合って欲しい。


万里子がそう言おうとしたとき、卓巳に両腕を掴まれた。

卓巳の顔が至近距離まで近づく。

万里子はキスされるのか、と一瞬身構えたが……。
卓巳から逃げたいとは思わなかった。

だが予想に反して、十センチほど離れた位置で卓巳は動きを止め、真摯な瞳で万里子を見つめる。



「万里子。君の目に、僕はメイドに金を渡して身体を求めるような……そんな男に見えるか?」

「いえ……」

「なら、信じてくれ。清廉潔白とは言わないが、そんな不道徳な真似は一度もしていないし、この先もしない」

「でも、契約書に……。結婚してから、隣のベッドであなたがそんなことを始めたら……って。私、そんなのは見たくありません。絶対にイヤ!」

「契約書の別項のことを気にしてるのか? あれは削除する。僕は婚姻中にいかなる不貞行為も犯すつもりはない」

「本当に?」

「ああ、約束する」



万里子は卓巳の言葉を信じた。
そしてこの日、“千早万里子”は“藤原万里子”となった。





―第4章につづく―

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