愛を教えて
卓巳は苦笑するしかない。
万里子も本当に申し訳なさそうに卓巳を見つめている。

すると、万里子の後ろからアイスピッチャーを持ってやって来た忍が、見かねて隆太郎に意見した。


「当たり前じゃありませんか、旦那様。万里子様は、もう卓巳様の奥様になられたわけですから」

「ついこの間まで、『お嫁には行かない、ずっとお父様のそばにいます』とか言っておいて、だ。卓巳くんに会った途端、朝帰りとは」

「お父様! それはもう言わない約束でしょう?」


万里子は赤くなって父に抗議する。


「いえ、お義父さん。本当に申し訳ないと思っています。でも、僕は親に縁のない人間です。二十年ぶりに、父と呼べる人に巡り会えました。万里子さんと一緒に、できる限り、親孝行させていただきたいと思っています」


偽らざる本心だ。
そして、嬉しそうな万里子の顔を見ていると、卓巳も胸が熱くなった。


「卓巳くん! 私のことなんかどうでもいいんだ。万里子は……万里子だけは幸せにしてやってくれ。寂しい思いをさせたのに、私を気遣って一度も母親が恋しいとは言わなかった。万里子の幸せだけが私の望みなんだ」


酔った勢いもあったのだろう。隆太郎は泣くように、卓巳に訴える。


「もちろん幸せにします。でも、お義父さんが幸せでないと彼女も幸せにはなれません。なるべく、寂しい思いをさせないように、僕が長期不在のときは、彼女がここに戻れるようにしておきますから」


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