愛を教えて
確かに、どれほど信頼していても、同じベッドで眠るのは愚行だ。
卓巳が約束を破っても、隙があった、と非難されるのは万里子だろう。

万里子はひとりでベッドに入り、壁のほうを向いて丸まった。


だが数分後、ベッドが傾いだ。


「隣で眠ってもいいんだな」


万里子の返事を待っているのか、卓巳はそのままの体勢で止まっている。


「……万里子、眠ったのか?」

「早く、入ってください。寒いです」


卓巳は慌てた様子で中に滑り込んだ。



どれくらいの時間が過ぎただろう。
背中に温かい熱を感じる。身じろぎするだけで卓巳に触れてしまいそうだ。万里子はどきどきしてとても眠れそうにない……。

万里子はうつらうつらしながら、卓巳のことを考え続けた。


――彼の腕の中は温かい、怖くないし、抱き締められるのも……嫌じゃない。


万里子は生まれて初めて人肌を恋しいと思い、その温もりに包まれて眠った。



それが卓巳に、一睡もできぬほどの甘美な苦痛を与えているとも知らずに。


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