愛を教えて

(4)キス

「神の前にふたりを夫婦として認めます」


牧師様の声を聞きながら、ふたりは誓いのキスを交わした。


数百人の招待客に見られる中、当初、茶番になるはずだった挙式は、ふたりにとって真剣な儀式に変わった。

その結果、『キスは頬か額に』と万里子にお願いされていたにもかかわらず、卓巳は唇を重ねてしまったのだ。


いくら卓巳でも、キスの経験くらいはある。
だが、万里子は狂おしいほどの恋情を覚えた初めての女性。
しかも、妻としてキスするのだ、と思えば感激もひとしおで、緊張のあまり手足が震えた。
卓巳はそれを周囲に、何より万里子に悟られまいと必死に隠した。


そして、万感の思いを込めて口づけたのである。


白い屋根のガゼボから、一斉に鳩が飛び立ち、ふたりの鳴らす鐘の音が晩秋の空に響き渡った。



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