愛を教えて
控え室は裏庭の離れに用意された一室だ。

今日は天気もよいので窓は全開。
そして、その窓の横に佇む人影が……。秘書の宗である。


窓から見える室内の光景は明らかで、彼は声をかけるかどうか迷っていた。

だが外には、ガーデンパーティの開始を待つ数百人のお客様がいる。


――主役のふたりが、控え室にこもったまま出て来ない。


ひと月前であれば喧嘩を想像しただろう。
だが今日は、宗の頭を違う種類の心配がよぎった。

きっと周囲も同じ想像をして、呼びに行く役目を宗に押し付けたらしい。

予定では、挙式衣装のまま卓巳の挨拶があり、乾杯をしてパーティが始まる。そういう段取りだった。


(……全く、困った社長だ)


宗は邪魔を承知で声をかけた。


「お取り込み中失礼いたします。パーティの開始時間を過ぎております。新郎新婦お揃いで出て来ていただかなくては困るのですが……」


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