愛を教えて
「もう、卓巳さんのせいだわ」

「ああ、そうだね。今度はちゃんと窓を閉めてからにしよう」


恥ずかしさのあまり、青くなったり赤くなったりする万里子と違って、卓巳は愉快そうに笑う。

万里子はこのとき、淡いピンクのドレスに着替えていた。
既成のドレスに手を加え、裾を地面から二センチほど上げ、デコルテラインをオーガンジーで包み込む。
万里子にとっては久しぶりに二の腕を出すデザインだ。
その代わり、肘まで隠れる手袋を着用していた。


「疲れただろう? 少しお父上のそばで休んでいたらいい」


卓巳はそう言うと、万里子の手を取り父の元まで連れて行ってくれた。


「でも、卓巳さんは?」

「金融関係と、あと……政治業者にも挨拶がいるだろうな。少し回って来る」


政治家ではなく“業者”と呼ぶ辺りに色々含みがあるらしい。


「私もおそばにいたほうが」

「いや。他人の花嫁を妙な目で見る輩に、君の挨拶はいらない。僕が戻るまでお父上のそばにいるんだ。いいね」

「……はい」


卓巳はその瞬間、ティアラに換えて、ピンクの薔薇とかすみ草の生花で飾った万里子の髪に、軽くキスをした。

そして、「お義父さん、万里子をお願いします」と言い、離れて行った。


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