愛を教えて
「外人じゃあるまいし、ところ構わずイチャイチャしおって。万里子、疲れたんじゃないのか? 最初からあまり無理をするんじゃないぞ」


花嫁の父らしい愚痴を言いながら、父は万里子を気遣う。


「ええ、わかってます。私は大丈夫ですから。それより、お父様のほうこそ大丈夫ですか? 今夜から忍とふたりですけど」

「今夜からだと!? 入籍してから、週の半分以上は戻って来なかった親不孝者が」


父の体を心配した言葉だったが、どうやらヤブヘビだったらしい。


「ごめんなさい。でも、卓巳さんはずっとおひとりだったんです。子供のころからとってもご苦労をされていて、つい……。たくさんの犠牲を払って、私を育ててくださったお父様には、本当に申し訳ないと思ってます」


健気なことを言い出す万里子に、感極まったのか、父は鼻を啜り始める。


「何を言うんだ! 私は……なんの犠牲も払ってなんかいないぞ! お前のおかげで、父さんは本当に幸せだった。これが今生の別れじゃないんだ。そんなふうに謝るんじゃない! これまでも、これからも、お前は私の自慢の娘だ!」

「お父様……」


父の言葉に思わず涙を浮かべ、それでも万里子は必死で微笑む。


< 271 / 927 >

この作品をシェア

pagetop