愛を教えて
万里子に背を向け、卓巳は離れを飛び出してしまった。

しかし、すでに後悔でいっぱいだ。
すぐにも引き返し、万里子を抱き締め謝りたい。許してもらえるなら、ひざまずいて詫びることも厭わない。
そして、再び万里子に口づけたかった。

だがそれは、欲望に囚われ、屈することになる。

俊介に話しかける万里子の幸せそうな目を見た瞬間、胸の奥にどす黒い思いが渦巻いた。


――やり場のない激情。


それが恋するあまりの嫉妬心とは欠片も思わない。欲望に溺れたふたりに対する怒りだと、卓巳は思い込んでいる。


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