愛を教えて
卓巳に抱き締められたまま、万里子はソファの上に体を起こす。
万里子が何も答えられずにいると、卓巳は彼女を抱いたまま、信じられないことを言い始めた。


「初めて君を見たときから、忘れられなかった。祖母の話を聞いたとき、真っ先に浮かんだのが君の顔だ。そのときはまだ気づいてなかったけど……君に恋して、結婚を望んだのは僕の本心だ。僕にとってこの結婚は偽りじゃない! 君は僕のたったひとりの妻だ。もし君が二年後に……いや、ルールを破ったのだからすぐにここを出て行っても、それでも僕の妻は生涯、万里子だけだ」



万里子の中に芽生えた卓巳への愛は、彼自身によって踏み躙られた。
愛はもう、どこにもないと思っていたのに。

萎れて枯れかけた心に、卓巳の愛が降り注いだ。それは、水が大地に滲み込むように、万里子の愛に命を与える。



闇の中に光が射し込む。
それは、あの夜の淡い月光ではなく、確かな明るさを持つ陽の光――。



「ほん……とうに? 本当に、信じてもいいの? もし、嘘だと言われたら……私はもう、生きていく自信がない」


万里子の声に“愛”を感じた。
卓巳はここぞとばかり、思いつく限りの言葉を駆使して、“愛”を引きとめようとした。


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