愛を教えて
「奴が本気な訳ねえだろうが! ババアが死んで、この家と金、それに会社が手に入れば、お前なんかお払い箱さ。それもわかんねえのかっ、この馬鹿女が!」


そのとき、泣き崩れるかと思った万里子が、キッと太一郎を睨みつけた。


「そ、そうかもしれません。すぐに捨てられるのかも……。それでも、愛してるんです。卓巳さんが好きなのっ!」



その言葉は炎となって、太一郎の全身を嘗め尽くす。

太一郎は神経の末端まで黒こげにされた気分を味わっていた。

悔しかった。

卓巳は自分にないものを全部持っている。正当な血筋、優秀な頭脳、強靭な肉体、周囲の信頼……どれをとってもはるかに及ばない。


太一郎の名は祖父の高徳がつけた。長男、跡継ぎを主張した名前だ。彼は過大に期待され、またその期待に応えようと努力した。

だが、悲しいかな、お世辞にも彼は優秀な人間ではなかったのである。

勉強は期待された半分の成績も取れず、スポーツも根気のなさが災いして長くは続かない。何をさせても標準以下。

周囲は期待外れを感じていたが口にはせず、母の尚子も決して認めようとはしなかった。


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