愛を教えて
高徳や尚子は、太一郎の泣き言など一切聞かず、ひたすら重圧をかけ続けた。父の敦は何も言わず、義理の祖母にあたる皐月の中で太一郎は存在しなかった。

太一郎がどんな馬鹿な真似をしても、愚かな罪を犯しても、誰も叱らない。やめろとも言わず、裏で手を回して揉み消した。

卓巳も皐月と同じだ。
太一郎の存在など無きが如く振る舞う。次は許さない、そんなものは口先ばかりだった。


(どいつもこいつもクソ野郎ばっかりだ)


そんな太一郎に、真正面から話しかけてくれた女性がいた。


『卓巳さんに代わって、私がお詫びします。申し訳ありませんでした』

太一郎に向かって頭を下げ、

『やはり乱暴は間違っていると思います。あんな真似はもうなさらないでください。お願いします』


怒る卓巳を宥めようとした。万里子は太一郎を庇った訳ではない。卓巳のことを心配しただけだろう。わかってはいても、なぜか心がくすぐられる。

それはあまりに穏やかな、愛に満ちた声。


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