愛を教えて
安西が引き上げたあと、卓巳はたびたび万里子の身体を気遣った。


「奴に殴られたとき、頭に衝撃を受けてるかもしれない。少しでも具合が悪くなったら、すぐに言うんだ」

「はい、わかっています。でも、もう大丈夫ですから」


万里子はそのたびに、同じ返事を繰り返していた。


太一郎のことなど気にもせず、自分の怪我には絆創膏を貼るだけで済ませた。
だが、万里子のことは心配でならないようだ。

卓巳は片時も離れようとしない。


「そんなに酷く殴られた訳じゃありませんし、頭も打ってませんから。そんなに心配しないでください」


万里子がそう告げると、


「僕がそばにいるのは迷惑なのか?」

「そんなことありません。そうじゃなくて」

「じゃあ、今日は僕の言うとおりにするんだ。頼むから、そうしてくれ」


卓巳がそばにいてくれて、嫌な訳がない。万里子は困ったような微笑を浮かべ、うなずいた。


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