愛を教えて
数時間後、ふたりの部屋のリビングは華やいだムードと甘い匂いで一杯になっていた。

ソファセットのテーブルにはケーキが置かれている。

ふたりで作った卓巳のバースデーケーキだ。大粒のイチゴが五個、ケーキの上に綺麗に並んでいた。生クリームも均等に塗られ、まるでプロの仕上げだ。
それもそのはず。ケーキは藤原家のコックが、デコレーションを施した。

ちょうど、最終段階の直前に事件が起こり、ケーキ作りは途中で止まったままになってしまい……。


『せっかく、卓巳さんが一緒に作ってくれたのに』


万里子がそう言って残念がっていると聞き、コックたちは彼女のために完成させてくれた。
嫁いで一ヶ月にもならない。それでも、使用人たちの気持ちを惹きつけるのは、万里子の人柄だろう。


ケーキの上には、ブルー、グリーン、イエローと大きめのキャンドルが三本。暗がりにゆらゆらとオレンジ色の優しい火が灯る。

そして万里子は透き通った声で歌い始めた。


「Happy birthday to you, Happy birthday to you,
 Happy birthday, dear 卓巳さん, Happy birthday to you.」


卓巳は万里子に促され、キャンドルの火を一気に吹き消した。


< 379 / 927 >

この作品をシェア

pagetop