愛を教えて
今日の卓巳はロンドンにある一流ブランドのオーダーメードスーツに身を包んでいる。わざわざサヴィルロウの店に発注した品だ。

ロンドン支社の取引相手がサーの称号を持つ英国貴族で、服装の細部にまで手を抜く訳にはいかない。

卓巳はそう言っていた。

万里子にすれば、相手はロンドンに住んでいるのだから、日本にいる間はそんなに気にしなくても、と思うが……。

世界中がインターネットで繋がれている時代である。卓巳ほどの立場になると、どこで写真に撮られ、それを見られないとも限らない。


万里子が卓巳の情報を探したのもインターネットだった。


クラシカルなひとつボタンのスーツを着こなす卓巳は、一分の隙もなく威風堂々としている。熱にうかされたような瞳で万里子にキスをねだった、昨夜の痴態が嘘のようだ。


「万里子？　どうしたんだ？」

「あ、いえ……はい、わかりました」

「じゃ、行って来る」

「行ってらっしゃいませ」


万里子は、ほんの二十分前の会話を思い出し、英国紳士然とした卓巳に切なさを感じる。

そのとき、卓巳は万里子の隣まで引き返して来た。


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