愛を教えて
「……続きは今夜のお楽しみだ。それとアレは無理しなくていい。処分すればいいから」


耳元で呟き、返事を待たずに玄関から出て行ってしまう。


(ずるいわ、こんなふうに囁かれたら……)


卓巳の声が耳に残ったまま消えない。
それは、ベッドの上で言われたいくつもの愛の言葉と重なった。


卓巳を見送るため、玄関から一歩外に出る。真冬の朝の空気に火照った頬が少しずつ鎮まっていく。
万里子は卓巳の乗った車が並木の向こうに消えても、ずっと見送っていた。



「奥様、あの……奥様?」


そんな万里子に後ろから声をかけたのは、メイドの佐伯茜だ。今朝は私服姿だった。 


「お怪我の具合はいかがでしょうか? 私のせいですみませんでした」


頭を下げながら万里子を気遣うが、茜の頬も腫れが残っていた。


「あなたのせいじゃないわ。茜さんは大丈夫? 傷痕が残ったりしないかしら?」

「私は平気です。でも、旦那様って凄いですね! 私、感動しました。王子様っていうか、映画のヒーローみたいでした!」

「そ、そうかしら?」


万里子は少し返事に躊躇する。


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