愛を教えて
万里子はベッドの端に腰かけてみる。

スプリングはほどよい弾力性があり、身体が沈み込むような感触はなかった。


「これだけ大きかったら、寝返り五回くらいできそうですね」

「でも、卓巳さんがお留守のときは……この巨大なベッドに、私ひとりじゃ」

「留守にする気がないんじゃないですか? 結婚後の外泊はほぼゼロですし。韓国に出張されたときも」


雪音はそう口にすると、堪え切れずに吹き出している。


「雪音さん、笑うのは失礼だわ」


笑いながら注意する万里子も説得力に欠けるだろう。


結婚以来、卓巳がオーナーズ・スイートに泊まることは、ほぼなくなった。とくに卓巳が愛を告白してからは、毎日、仕事が終われば飛んで帰ってくる。新婚にふさわしい姿だと、皐月は大喜びだ。

そして、つい先日、卓巳は韓国からも日帰りして来た。翌日もソウル市内で仕事があるにもかかわらず、だ。これには万里子も驚いたが、皐月も開いた口が塞がらない様子だった。


「それは失礼いたしました。さて、と。このサイズのカバーを用意しませんと。市販じゃ無理ですよね?」

「ごめんなさいね。面倒かけてしまって」

「いえいえ、仕事ですから。でも、これってお姫様仕様ですよね。ひとつ間違えばラブホテルみたいで……」


雪音は慌ただしい様子で寝室から出て行く。ひとりになった万里子は『ラブホテル』の言葉を思い出し、真っ赤になった。


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