愛を教えて
彼女は怒りに任せて卓巳の非を責め始めた。


「どんな理由かは存じません。ですが、人の弱みを握って何かを強要することは犯罪です。そんな汚いことを考える方に、ふしだらだと非難される覚えはありません!」

「僕を怒らせるのは結構だが、この先どうなるかわかってるんだろうな。君の行状は白日の下に晒され、千早物産は倒産だ」

「覚悟はできています」


万里子の答えに卓巳は立ち上がった。

腹立ち紛れに大股で万里子に歩み寄る。そのまま彼女の左腕を掴み、強引に立たせた。


「ほう、どれほどの覚悟かな? 金に困ったことなど一度もないんだろう。どんな仕事をする気だ。それこそ身体でも売るつもりか? ならばいっそ、この場で脱いでみたらどうだ。隣にはちょうどダブルベッドもある、僕らで可愛がってやろう。朝まで付き合えば、家を借りるくらいの金は出してや」


――パシンッ!


万里子の右手が卓巳の左頬を打っていた。


そしてそれは、怒りに目が眩んだ卓巳の意識を、現実に引き戻した。

誰のために、何のために万里子を得ようとしたのか。
卓巳は頬を打たれ、思い出す。

祖母を納得させるのに、万里子はこれ以上ない女性だ。今や卓巳の中で、かりそめの花嫁は万里子と決まっていた。


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