愛を教えて
その万里子の瞳に、卓巳を燃やし尽くさんばかりの怒りの炎が映っている。
直後、炎は揺らめき、涙となり……堰を切って溢れだした。


(なんてことだ……)


卓巳は眩暈を覚えた。

的を射られたショックで過剰に反応してしまった。過去の行いをあげつらっただけでなく、自ら、契約を反故にしかねない男だと宣言したのだ。

どうにも愚かで、後味の悪い行為だった。


「……社長」


宗の声に、卓巳は慌てて万里子の腕を放した。そして、呼吸を整える。



「すまない。さっきの言葉は訂正する。僕たちで君をどうこうするつもりは全くない。感情的になって申し訳なかった」


卓巳は脅迫を諦めた。
万里子にはそれでは通用しない。この短い時間に、彼はそのことを学んだ。


「わかった。ふしだらだと言った言葉を訂正する。そして、僕の置かれた状況を説明させて欲しい。そのうえで、君が判断してくれ……頼む」


殊勝に頭を下げる卓巳を見て、万里子も少しは落ちついたらしい。何も言わず、ソファに腰を下ろした。

卓巳は少し迷ったが、そのまま万里子の隣に座る。そして、自分を取り巻く複雑な事情を話し始めた。


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