愛を教えて
「もうっ! 卓巳さんたら。じゃ、東西銀行の頭取もグルだったんですね。悪い人たちだわ。犯罪ですよ」

「怒ってる?」

「何をおっしゃってるの? 私が怒ってるように見えますか?」


クスクスと本当に可笑しそうに万里子は笑った。

卓巳はあからさまにホッとした様子で、もうひとつの話を切り出したのだ。



「もうひとつある。実は……子供のことなんだ」


ふい打ちだった。
その言葉に万里子の胸は槍で突き刺されたような衝撃を受ける。


「君にどうしても話しておきたくてね」

「ええ、あの、卓巳さん、実は私」

「僕に子供は持てない。――イギリスから戻りしだい、病院に行ってみるつもりだ。十年前は治療を拒んだが、今からでも可能な限り治療を受けようと思っている。カウンセリングだけでなく、投薬や手術も。でも、子供は無理かもしれない。だから」

「卓巳さんっ! 私……私も……あの」


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