愛を教えて
その瞬間、卓巳は万里子を抱き寄せキスしたのだ。

唇が離れたとき、


「それでも君が僕を愛してくれるなら……仮に逆の立場に立たされても、同じだとは思わないかい?」


卓巳の優しい嘘が万里子の胸に沁み透っていく。


「卓巳さんは……それでいいの?」

「聞いてるのは僕だよ」

「そのときは……養子でもいいかしら? 不幸にしてひとりになった子供はたくさんいると思うの」

「何人でも。空き部屋はたくさんある。足りなければ、裏の連中を追い出そう」


万里子の涙を指先で拭いながら、卓巳は冗談めかして答える。


幸福の光がふたりに降り注ぐ。

それはまるで雪のように……わずか数日で消えてしまう、切ない光であった。


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