愛を教えて
『自分は心臓病で余命一年。自分の生きているうちに結婚し、一年間は結婚生活を継続すること。できなかったときは、自分が所有する株式はすべて売却し、寄付するように』



「僕には僕の信念もあり、祖母とは結婚に対する考え方が違う。だが、祖母が純粋に僕の結婚による幸せを望み、こんな手段を選んだのだとしたら……。余命一年なら、たったひとり、血の繋がった孫の幸せな結婚生活を見せてやってもいいんじゃないかと思ってね」


つい先ほどまでの攻撃的な口調を魔法のように消し去り、卓巳は紳士的な言葉を選んだ。


いくらかは法的手段で押さえられるが、遺産のうちかなりの金額を寄付することになる。

そうなれば、グループの中から非効率部門は撤退を余儀なくされるだろう。規模が縮小されればリストラもしなければならない。藤原グループ全体で二十万人を超える社員とその家族に影響がでることは避けられない、と。


「僕も君と同じだ。会社のため、祖母のために、戸籍に妻の名を残す決意をした。君がお父上のために、人生における最も重要な二年間を僕に捧げてくれるなら、それにふさわしい代価は用意する。千早物産は僕が守るよ。どうか信じて欲しい」


脅したりすかしたり、忙しいことだと普通なら思うであろう。

だが、万里子は卓巳の言葉を信じ、契約書にサインしたのである。


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