愛を教えて
「仕方がないだろう。君が認めるからだ。しらを切り通せばいいものを」

「嘘を……つかなきゃならなかったんですか? 事実なら、私は疵物で穢れた女なんですか?」

「僕はそんなこと思ってないさ。でも他の連中は違う。第一、君のせいで僕の嘘もバレたんだ。世の中には、嘘をつかなきゃならないときもある。君が、僕や君の父上に恥を掻かせたんだ!」

「……恥……ですか」


卓巳はこのとき、万里子の顔色が変わるのに気づかなかった。


それは何度も繰り返してきた、卓巳の失敗。

泣いても得られなかった愛情は、彼に愛の儚さを教えた。幼かった卓巳の魂に刷り込まれて、消すことができない。男として愛を得た経験もなく、そんな卓巳に嫉妬心をコントロールする術など持ち合わせてはいなかった。


しかもこの日の万里子はいつもとは違った。

反抗的なその態度に、卓巳は万里子の愛を見失う。



この瞬間、彼の心は一気に炎上した。

せっかく築き上げた愛の城を、自らの嫉妬の炎で焼き尽くすほどに。


「ああ、そうだ。妻が過去にレイプされてたなんて、男にとっては恥もいいところだ。しかも太一郎の部屋にひとりで行っただと? 馬鹿にもほどがある。奴に話したら筒抜けになることもわからなかったのか!?」


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