愛を教えて
ほんの一瞬、室内は静寂に包まれた。

物音ひとつなく、万里子の呼吸音すら聞こえない。


卓巳はあまりの静けさに、ふと万里子に目をやった。

それはこの部屋に戻って初めてのこと。


そのとき、これまで見たこともない冷ややかな万里子の視線を捉え、背筋が凍りついた。


「取り返しのつかないことになる前に、助けたかったのよ……太一郎さんを」


万里子は硬い声でポツリと呟く。


「太一郎のためだと? そんなことのために、君自身が取り返しのつかなくなるような、愚かな真似をしたのか?」


それには、万里子は何も答えない。


終焉の予感が卓巳を襲った。

彼は抗うために激情を掻き立て、万里子にぶつける。


「奴のキスはどうだった?」

「……なんて酷いことをおっしゃるの?」

「僕よりさぞ上手かったんだろうな。で……太一郎とは何回寝たんだ?」

「馬鹿なことを言わないで。私は、毎晩あなたと一緒です!」


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