愛を教えて
万里子は濡れたままでバスローブを引っかけ、洗面所を出て寝室に駆け込む。


「卓巳さん!」

「……万里子様……」


そこに立っていたのは雪音だった。


「雪音、さん」

「あの、卓巳様はご自分でお車を出されました。行き先は何もおっしゃいませんでした。でも、今夜はお戻りにならないと」


雪音の顔を見るなり、万里子の瞳から涙がポロポロと流れ落ちる。


卓巳はもう戻らない。

ふたりの夫婦ごっこは終わりなのだ。

いや……始まってすらいなかった。

彼の中では。


「卓巳様は酷いわ。こんな、こんなこと。ご夫婦の間でも許されることじゃありません」


雪音の瞳も潤んでいる。

彼女の手には引き裂かれたブラウスやスカート、そして――下着があった。


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