愛を教えて
(宗は、自分ならと想定して作ったみたいだな)


万里子が不満を唱えた別項の一がいい例だ。

『万里子は卓巳の交遊関係に一切不満を唱える権利を持たない』

これも、卓巳は不要だと考えていた。

卓巳はチラリと運転席の宗に視線を向けつつ考える。
なぜ、それほどまでに女が必要なのか、と。セックスに溺れて身を持ち崩す人間のなんと多いことか。

卓巳はいまだに、夢に見ることがある。
男の上に跨り、腰を振り、嬌声を上げる母の姿を。なんと無様で汚らわしい姿であろう。


(万里子もそうしたのか? あんな優しい顔をして。足を開き、男に貫かれ、快楽に溺れて罪を犯したのか……あの母のように)


卓巳は無意識のうちに契約書を握り締めていた。

彼は自嘲気味に笑うと、軽く頭を振る。


(しっかりしろ。女はみんな同じだ)


「今更、後悔しても遅い。不倫の末、妊娠した女になんぞ、死んでも触れるものか」


宗に聞こえないほど、小さな声で呟く。

それは卓巳が自分に向けた、固い戒めであった。




―第2章につづく―


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