愛を教えて
「――社長!?」

「え? ああ、済まない。どうした?」

「例の英国進出の件ですが、国の監査を担当するライカー社との折衝はどうしましょう。社長が出向かれますか? それとも、ロンドン支社長に一任ということでよろしいですか?」

「ああ、それでいい。入籍が済むまで、こっちが最優先だ。仕事は可能な限り削ってくれ。中澤にもそう伝えろ」


宗はF総合企画に籍を置く卓巳の個人秘書だ。

そして中澤朝美《なかざわあさみ》は、藤原本社秘書室の社長付き第一秘書。


このふたりはただの仕事仲間ではない。

宗は仕事を円滑に進めるため、複数の女性と関係しているようだ。卓巳はそのことに気づいていたが……あえて、口は挟まなかった。


「はい。――しかし社長、本当によかったんですか?」

「何がだ?」

「別項の二です。社長の強靭な精神力と禁欲的な性質は充分に承知していますが。私としましては、今からでも別項に四を加えるべきだと思っています」


四とは――『夫婦の間に性交渉があり、子供が誕生した場合、生まれた子供の親権・監護権は卓巳が所有し、子供は藤原家で育てられるものとする』というもの。


「必要ない。どちらもだ」


卓巳は即答して宗を黙らせる。だが、心の内では苦笑していた。


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