愛を教えて
浮島の「お帰りなさいませ」と言う言葉を無視し、卓巳は二階に駆け上がり自室に飛び込んだ。


「万里子! 万里子! どこにいる!? すまない、悪かった、今度こそちゃんと話したい」


入ってすぐのリビングに万里子の姿はなく、奥の寝室に人の気配を感じた。


「万里子。悪かった。本当に……」


だが、ベッドの向こうにあるウォークインクローゼットから姿を見せたのは、万里子ではなかった。


「お帰りなさいませ。旦那様」


雪音は冷ややかな声で言う。


「あ、ああ、ただいま。万里子はどこかな?」


恐ろしいほどの沈黙が寝室に広がった。

卓巳は唾を飲み込む。喉の奥がゴクリと鳴った。


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